ポップに心を削られて

ポップに心を削られたマチ子の日記です

トラットリアの夜明け頃

先月、神奈川県某所、とある異性と、とあるレストランで食事をしてきた。

食事に出かける前は、彼の部屋にいた。

更にその前には、近所のスタバで同じコーヒーをテイクアウトして、

「全然冷めないから、いつまでたっても飲めないなぁ。」

なんて無意味に困ってみせた。

実のところ全くもって困ってはいなかったのだけど、どんなアプローチをすれば、どんな表情でどんなリアクションが返ってくるのか、それはそれで毎度楽しみなもので。

しかし浅ましい猫なでな私に対する彼の返答は、そんなセンチメンタルを抱えた下心を見透かしてか

「ねー、スリーブあっても熱いよねー。」

と、だいぶ物足りなさを感じる、そっけない返事だった。

それでも、卸したてのヒールを履いた私に歩幅を合わせてくれていたのは、その後の穏やかな声色からも十分に伝わる。

こういう些細なやり取りを楽しめるようになったのも、いつからだったろう。

昔は喧嘩ばかりだったけれど。

日々の倦怠に心が潤い、滴下したその波紋からたおやかに揺れる感情は、実に胸が膨れるものである。

それなのに日頃互いになかなか時間が合わないものだから、すれ違いもいいところで。

そんなときは、いつも情緒が微かな乱気流に吹かれ、少しだけ心のささくれがめくれるような痛みが走る。

気のせいかな。

それに少し大袈裟かなとも思うけれど。

部屋に帰って来て、ソファに腰掛ける彼に話しかけようかかけまいか・・・う~ん、話しかけるとすればどんな声色で、どんな表情で?何を話せば・・・

彼はいつでも考え事をしていて、例えご機嫌であっても少々不機嫌に見える節があるので、一緒にいると実に気を揉むことになるのである。

そんな彼を見て久しぶりの困惑に歯痒く悩む私は、右手でかき上げた髪を無神経にもて遊ぶしかなかった。

左手には彼と同じブレンドコーヒー。

冷えてきたスリーブと、困惑からくる捨て鉢な気持ちがいやにダブる。

無言の時間がぎこちなく感じるほど久々だった2人の空間が、なかなか暖まらない部屋と妙にマッチしていて。

その空間にいよいよ暖房の軽い唸りが響いた頃、彼が地元のフリーペーパーをめくりながら、唐突にこう切り出した。

「ん~、たまには一緒に美味しいものでも食べに行く?ご馳走するよ。

最近は、お互いに顔合わせてゆっくりご飯なんてことも無かったでしょう。」

同じ時間を共有していても尚、すれ違いに煩悶していた気持ちに反して、心が踊った。

卸したてのヒールに再び足を入れる。その日は久しぶりにとても暖かかった。

海が真昼の陽を受けて青々と浮かび上がり、水面に砕けた太陽が、風の動きに合わせて微動に震える。

その海の青は、曇りのない胸の奥の安息を表した、「今」そのものの色だった。

しかし道中、突如溝に引っ掛かりヒールが脱げた。

私はどうしてかこういう事があると、すぐに「幸先が悪いな」などと思い、羞恥と共に少々気をふさいでしまう面倒な女なのである。

彼はそれをまたもや見透かして、「待っててー。」とだけ言い、そのヒールをこちらまで持ってきて「はい、どーぞー。」と履かせてくれた。

そして

「何でここ歩くって分かってるのに、ヒールなんて履いて来るんだよー。」

なんて小ざっぱりと意地悪に呆れる笑顔は、かつての少女漫画のように

「わざとだよ?」

と言うに相応しい展開だったのだけれど、結局ドキドキしたりロマンスが始まるなんてことは全くもって無かった。

 

何故かと問うに実のところ、その「とある異性」とは兄のことでありまして、単に互いの暇つぶしに腹を満たしに行っただけのことなのである。

なぁんだ、そう言うと一気につまらなくなりましたね。

無論、「すれ違いに煩悶していた気持ちに反して、心が踊った」のはロマンスでも何でもなく・・・まぁ、何ていうか、人の金で欲を満たせるっていうのは、本当に気持ちの良いことの例えです。

食事に行ったレストランというのは、昔からもう何度も足を運び通い慣れた店であるし、いわゆる食べ慣れた「お袋の味」が名状し難いっていうソレと同じで、今更もう書くことも何もないのだけど。

しかし、かくいう私も今現在、どういうわけかブロガー(?)の端くれでございまして、故に筆を執るに至った次第である。

ここまで約1700文字、「艶な話」を描いてきたにも関わらず、なんと今日はこれでもグルメレポなんですの。(ここまでで記事一本書けたんじゃないの?)

 

 

最近は互いに忙しく、なかなかにご無沙汰であったが、よく兄と行くのが七里ヶ浜駅から徒歩5分の所にある「アマルフィイ  デラセーラ」である。

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カジュアルな一軒家レストランが、親しみのある心落ち着く雰囲気。奥に店内よりも広いテラスあります。

むしろオープンテラスがメインだし、冬でも混んでいる。

湘南エリアではすこぶる人気で、土曜日曜、ピーク時は一時間以上並ぶので早めに行くのがベスト。

ちなみに兄と私、互いに色んな店には行かないし、気に入った店があるとそこにばかり足繁く通う傾向にあるため、外食と言えば大抵いつもココ。

 

 

まずこの店は断崖絶壁の上に建つので、駐車場から急な階段をぐんぐん登って行かなければならない。

高齢者の方や妊婦さんは充分に気を付けてください。無論ヒールの女もどうかと思う。(私のことです)

しかしながら、登りきった苦労がチャラになるどころかお釣までもらえるのが、この店の最大ポイント。

(ただ断崖絶壁の上で吹きさらしの為、強風時はテラス席に限り、ゲストの受け入れを制限している場合もあるので要注意。)

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提携駐車場を出たら、早速江ノ電と遭遇。幸先が宜しく大変結構。

 

 

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これは帰り際に撮ったものなんだけれど、先ほどとは反対位置にいます。

こんな感じで江ノ電の踏切を越え、写真とは逆方向にどんどん登って参ります。

エゲツないほどの急坂を見かねて私のバッグを持ってくれている、とある異性が写り込みました。

 

 

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早くも困難。

先ほどの画像から90度回転しただけなのに、何とそこには段が申し訳程度に見えるほどの急な階段・・・

これだけ見るに、いささか隠れ家っぽいハイカラな雰囲気ではあるが、店自体はどちらかというとルーラルなトラットリアに近く、想像以上にその敷居は低い。

 

 

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こちらが道中、ハマった溝。

ヒール女子にとっては網の目を歩くような所業で、数センチおきにトラップばかりですよ。

故にヒールの女は要介護。

ちなみに左のコッペパンみたいな靴は、介護してくれた兄です。

まぁ、でもこういうのも本来

「きゃ~、怖い〜。歩けない〜・・・(チラッ)」とか「ほら~、おいで~。(まだ付き合ってもいないのに手を繋ぐ)」

などという謎のアピ~ルをロマ〜ンスの起爆剤にしたい、そんな浅ましいベストカップルには大変結構かと思いますよ~~。

 

 

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そして最後この階段を登り終えたら、とんでもない高待遇が待っている。(秘密の花園感が本当にたまらない・・・)

 

 

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やっとお店に着きました。

そもそもこの店にたどり着くには、如何なる星の下に生まれたとしても、幾多の困難を乗り越えて行かなければならない。

天国への階段は想像以上に険しく、生前の所業が試されているかのようである。

ちなみに駐車場から店まで徒歩2、3分。(ヒールの場合を除く)

「何だよ短いじゃん!」と思ったあなた、嫌いじゃないです。

 

 

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待ち合い席から見た景色。

食事が無くとも、最早これが最高の前菜。

 

 

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待ち合い席の引き。

画面右側に見えますのが、言わずもがなの我らが江ノ島

ちなみに奥のテラスからは180度相模湾を一望、堪能できるパノラマオーシャンビュー。富士山も見えます。

ここを目的地として湘南に足を伸ばす価値は、大いに有り。

 

 

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兄も私も、毎回上段右側記載の「アマルフィイ」コースにメインはパスタが定番。(見えにくくてゴメンナサイ)

ピザも種類が多く、生地はクリスピーで女性でも軽く食べられるが、もちもちしていて満足感も高い。そして男性でも満足出来る大きさ。

ちなみにそれぞれ単品の値段を考えると、コースの方が圧倒的にお得です。

 

 

前菜

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いつも思うんだけど、前菜だけでもポーションは重ためでだいぶ美味。

まだまだ序盤なのに、早速「嗅、視、味」のベストバランスが、お口の中で一体となり隈なく広がる。

最悪これと白飯があればそれでいいですよ、文句言わないもん。最早満足。

ちなみに兄は、真鯛を口に運び「野菜おいしいー」と言っていた。

ラグがありすぎて伝わらねえよ。

 

 

ミネストローネとオレガノのフォカッチャ(自家製)。 

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フォカッチャについては、ベーカリーの本格的なフォカッチャというよりは、もう少しだけ素朴で家庭寄りな印象。

オレガノがメインなのか、オリーブオイルが控えめでオリーブの風味が少々弱いように感じるが、それはそれで万人受けするかなといった感じ。個人的には追いオリーブしたい。

オレガノのややほろ苦く清涼感のある風味が、ミネストローネにとても良く合っていた。

しかしながら「うーん、これは実にオレガノ」と思いながら食べたことは一度もない。

ミネストローネは、少々塩分キツめに感じた。

これもどちらかと言えば、家庭的な素朴さを孕んだ味で少々の物足りなさは残るのだけど、この後のメインのボリュームを考えるとちょうど良いかも。

トマトの酸味と野菜の旨味はバッチリです。

コースの総評として考えると、この素朴さもまたベストバランス。

 

 

そしてあろうことかここにきて、隣のテーブルに腰掛けるキャピキャピ中年カップルのテンションが非常に煩くて困った。

キャンキャン声が脳天にまで響くし、第一、声がデカすぎてこちらの味覚が脳まで回らねえよ、と思いチラ見すると、テーブル上にワインが3本置かれていた。

真っ昼間から酔ってんのかよ。なるほど、許す。羨ましい〜。

 

 

メイン 魚介の旨味たっぷりショートパスタ

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パスタが見えなくなるほどの、シーフードのボリューム。パスタはショートパスタです。

パンチのある見た目に反し、ほぼシーフードの出し汁かと思うほどの優しい味わいで、全くクドくないにも関わらず満足感がエゲつないのに永遠に食べられそう。(錯乱)

ミネストローネとフォカッチャに対し、このパスタは「正統派イタリアン」な味で、当然魚介も新鮮だし満点期待通り。そしてその名の通り「旨味たっぷり」。旨味の境地。

少々ニッチなポイントかもしれないが、エビが丁寧にグリルされているので尻尾まで食べられるのも、個人的に毎度とても嬉しい。(お行儀が悪くてゴメンナサイ)

ちなみにこのパスタに限りコース料金に+600円(!)なので、極めてブルジョワ向け。

うちの兄は「庶民レストランが庶民を煽りにかかるとか、悪の所業すぎてなんかねー。二人で+1200円て!これは庶民を煽るヤクザのパスタ。」と言いながらも、綺麗に完食いたしておりました。うんまいもんね、本当。

ちなみにアイスクリームを女性の間では「老化を進めるかわいい悪魔」と言うみたいですね。それに比べて何だよ、「庶民を煽るヤクザのパスタ」って。人道にもとりすぎてもう素直な気持ちで食べられないじゃん。

 

さてここで一旦、当記事をご覧くださっている読者の方々におかれましては、そろそろこの積極的な飯テロ政策に恨みの念がふつふつと沸いてきた頃かと推測します。

そんなあなたは今すぐ拳を硬く握りしめ、正直に画面の前に差し出してくださいね?

恨みっこなしの一発勝負で行きますよ。

せ~の、ジャンケンポン!!(なにゆえ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ま、負けた~!!

ふふふ、優しいでしょう?

だからちょっと長いけど、最後まで読んで。お願い~。

 

いよいよ最後のデザート。いちごとチョコレートのケーキ。(食後のドリンクも付いてます)

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私の貧乏舌ではいかんせん冷凍っぽく感じて、さして美味しくはなかったんだよなぁ。

唯一のコメントは、「周りに散らかっている赤のカリカリが非常に酸っぱい。」

しかしこの酸味で全体的な甘味が締まります。

バランスにおいては「さすが」といった感じだし、そもそものシンプルさもイタリアドルチェの特徴かなと。

だがここの店のドルチェは、当たり外れが極端に激しい印象が少し残念。

ちなみに兄は、始めこそ「俺これ好きー。」と言いながら貪るように口に運んでいたものの、3口目くらいから突如「これ、何。なんかスポンジが水っぽいわー。」とペースダウン。情緒不安定で無常に響きありすぎ。

画像は無いのだけど、以前足を運んだ際に食べたパンナコッタは非常に美味で、「これだけの為に来店したい!」と思えるほどでした。

食後にホットコーヒーをお願いしたのだけど、苦味を押す今風なコーヒーではなく、こざっぱりとした感じが好印象。

料理の余韻を楽しみたいので、これくらいライトなコーヒーは「締め」の口直しには持って来いな飲みやすさで、大変美味しゅうございました。

 

 

テラス席
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即席感満載なテーブルメイキングでチープ感が否めないし、更には潮風の影響も相まってか建物やテーブルがやや老朽しているが、それもまた一興。

前述した通りこういった大衆店は、とても美味しいものが食べられる反面、気取っていないので大変足を運びやすいし、この雰囲気が大局的に見てどういうわけか全てと相乗効果を発揮するんだよなぁ。大好き。

いささか私見を述べると、本来ならば湘南っていうのはアーバンなリストランテよりも、こういった趣のあるオープンな店がもっと建ち並ぶべきなんですよ。

だってこのロケーションと、「味」があればもう何もいらないでしょう。

余計な小細工無しでこの潔いシンプルさが、ごまかしやハッタリが無くて本当に大好き。

そしてこの店に至っては、「余計なところに注力していないですよ」感が、料理に対するプライドを感じる。デザート以外の話デース。

更にはロケーションに、眼福における責任の所在を全てぶん投げにかかってる。

料理に自信無かったらそんなこと出来ないでしょ、というのが率直な感想だし、俺の仕事は「視覚」じゃねえ「味覚」だ、と言われても「ですよねー!」ってカンジ。

極めて男前な店だし、もう本当に「湘南住民の実家」なの。

そんなことだから、ト~~キョ~~~にお住まいのイミテ~ションブルジョワインスタ女は勘違いしないように。(と、ウザイ常連客は申しております。)

しかしながら遠方から訪れるファンも多い、魅惑のイタリアンなのは確かです。

 

ちなみに周りのお客さん達、いつ行ってもほぼ高確率でみんなピザを食べてるんですよね。

ウエイターさんも、毎回メインをパスタにする私たちに、ほぼ毎度といって

「シェアも出来ますから、どちらかのメイン料理はピザでも良いかと思いますよ。」

みたいな事を言ってくるので、こらこら常連の顔と「いつものやつ」は覚えなさいよと。全く学ばねえやつだなと思っていたのだけど実はここ、ピッツェリア(ピザ専門店)なんですよ。そりゃピザも勧めるわ。

そもそもの所で、店の外壁にも「ピッツェリア」と書かれてあるしね。まったくもう。

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分かってはいるのだけど、あまりピザを食べる習慣がないので、やはりパスタの方が好き。

そしてこの店はピッツェリアゆえに、コースも「肉料理・魚料理」などのセコンドピアットは無し。あくまでピザ・パスタがプリモでメイン。どちらを選んでも全く外れは無し。

ピザはやはり湘南といえばで、「七里ヶ浜」という名のしらすのピザが満点のオススメ。

ご馳走様でした。

 

そして帰り際の駐車場、膨れた腹に纏うベルトの位置を正しながら、ふと兄がこう言った。

「いつも見るここの景色って、意外と夜明けに見たことないでしょう。

実は夜明けにここから見る朝日って、格別なんだよ。

水平線が驚くほど浮かび上がって、あぁ地球にいるんだよなって気になるんだよねー。

こんなに広い水平線と空の曖昧な境界線が、何故だか奥行を増すんだよねー。」

なるほど・・・

奥行を増すであろう地球の境界線に対し、「ねー」という抑揚のない、生彩を欠いたメカニカルな兄の声色に少々の違和感を覚えながらも

「ではいつかの夜明け頃、またお互い時間が合うときにこのレストラン(駐車場)の前でねー。」

そう約束を交わし、互いに帰路に着いた次第でありますー。

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気分はまさにアマルフィ海岸。

「デラセーラ」とはイタリア語で「夕日」を意味し、その名の通りここから眺めるサンセットも極めて美しい。

 

 

余談

無論、帰り道も恐ろしいまでの下り坂。

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皆さん飲み過ぎとヒールには注意ですよ。ではまた。

 

 

行った店